「タネもしかけもありません」科学館のおねえさんは実験台の引き出しから大きさ5cmほどのバネを取り出しました。
そのバネを手でまっすぐに引き伸ばし、お湯の中に少しずつ入れていくと・・・・・・。
アレ、アレ!
針金のようにまっすぐになっていたものが、アッという間にバネの形にもどっていきます。
これは手品を見せているのではありません。じつは、元の形をしっかり覚えていて、温めただけで元にもどる不思議な金属を紹介していたのです。
この金属は、ふつうの温度では自由に曲げたり、伸ばしたりできますが、熱したり、お湯の中に入れるとたちどころに元の形にもどるのです。
最初の形をきちんと覚えていることから形状記憶合金と呼ばれています。
では、どのようにして元の形を覚えているのでしょうか。かんたんに説明しましょう。
この合金は、温度の高いときは隣り合う金属原子がきちんと並んでいます。
温度が下がると並び方がゆるんでしまい、この状態では自由に形を変えることができます。
しかし、温度を上げてやると再び元の原子の並び方にもどるため、形も元どおりになるのです。
元の形を覚えている性質(形状記憶効果という)は1951年アメリカの科学者が合金の研究をしているときに偶然発見しました。
現在では、20種類以上の形状記憶合金が見つかっていますが、代表的なものは、ニッケルとチタンの合金です。
この合金の便利な性質を利用して、温室窓の自動開閉や電子レンジの換気口、パイプとパイプの継ぎ手などに使われています。
今後、さらにいろいろな方面で利用されていくことでしょう。
《合金とは?》
2種類以上の金属を、それぞれ溶かして混ぜあわせ冷やして固めた金属を合金といいます。
合金は、天然の金属より強いもの、硬いもの、軽いものなどといった、よりすぐれた性質を求めて人工的につくりだされた金属です。
代表的なものとしては、次のようなものがあります。
- ジュラルミン(アルミニウム、銅、マグネシウムとマンガン)
- ステンレス(鉄、クロムとニッケル)
- ハンダ(スズと鉛)
- しんちゅう(銅と亜鉛)
《ニッケル−チタン形状記憶合金 どうやって作るの?》
ニッケルとチタンを約1:1の割合で混ぜて合金を作り約500℃の高温にして形を覚えさせます。
こうしてできた形状記憶合金は低温になって形を変えても熱を加えると元の形にもどります。
元の形にもどる温度、これを変態温度といいますが、ニッケルとチタンの混ぜる割合を変えることによって自由に変態温度を調節できます。
その範囲は、およそマイナス180℃からプラス100℃までと非常に広範囲ですので、用途によっていろいろなタイプの形状記憶合金を作ることができます。
[資料提供:古河電気工業(株)]