生物は、限られた時間しか生きることができません。しかし、生物は生殖という営みによって子孫を残し、なかまをふやしていきます。
親から子へ、生命はどのようなしくみでうけつがれていくのでしょうか。
私たちの身のまわりの動物、そして植物も、そのほとんどがオスとメス、あるいは雄しべと雌しべをもっていて、性行動の結果、子孫を残していきます。(有性生殖)
一方、イヌやネコといった私たちに身近な動物を離れて、生き物の多様な世界を見てみると、性などを介さずに生殖を行っている生き物はいくらでもいます。
アメーバや大腸菌などは、たった1個の個体が2つに分裂してふえていきますし、ヒドラやジャガイモなどのようにからだの一部が分かれてふえるものもいます。(無性生殖)
生命があらわれた最初のころは、無性生殖でふえる生き物ばかりでした。単になかまをふやすことだけを考えると、オスとメスが出会うために大変な時間と労力が必要な有性生殖より有利なようにみえます。では、どうしてオスとメスのような「性」を持つ生き物があらわれたのでしょうか。
無性生殖でもふえるジャガイモを例にそのことを考えてみましょう。
ジャガイモは、適度に寒い所でないと花は咲いても種子はつけないので、たねいもから育てるのが普通です。たねいもから育てると、親(たねいも)の味、収量などの特徴がそのままうけつがれるので、よい品種を多量に栽培することができます。ところが、病気に対する抵抗力なども親と同じなので、あるウィルスに一株が感染すると、その被害はすぐに広がってしまいます。無性生殖でふえる生き物は、いつもこうした危険にさらされているのです。
この点、有性生殖では、親とは少しずつ特徴の違う子が生まれ、病気に対する抵抗力の強いものは生き残る可能性が高くなります。つまり、有性生殖は、単に「なかまをふやす」だけでなく、「親の遺伝情報を混ぜ合わせて、新しい個体をつくる」という営みであり、こうした危険から逃れるために生命が編み出したシステムなのです。まわりのみんなが自分と同じクローン人間ばかりの世界なんて、個性(違い)がなくてつまらないですよね。
《子孫を絶やさないための戦略》
オスとメスが出会って自分のなかまをふやすことは、思いのままに移動できる多くの動物たちにとっては、むずかしいことではありませんが、自由に動けない生き物たちにとっては、とても大変なことなのです。
サンゴは、成長していったん岩にくっつくと、そこで一生を送ります。このため、年に一度、夏の満月の夜に卵子と精子をいっせいに放出することで出会う確率をふやしています。
また、あまり移動できない動物の中には、カタツムリやミミズなどのように、オスとメス、両方の機能をもった雌雄同体の生き物もいます。雌雄同体であれば、全員がオスでもメスでもあるわけですから、そばに同じなかまがいれば、自分の子孫を残すことができるのです。こうしたからだのしくみをもつ生き物は、動物の世界に限ったことではなく、雄しべと雌しべをもつ植物も雌雄同体なのです。
植物は、自分の勢力範囲を広げるために、他の助けもかりています。カエデやタンポポなどのたねは、風で運ばれるので、風に乗りやすい形をしています。また、サクラなどの被子植物の多くは、蜜や果実という「ごほうび」をあげるかわりに、昆虫や鳥などに花粉やたねを運んでもらっています。
このように、生物は自分のなかまを絶やさないように、様々な工夫をしているのです。